幽霊からの手紙何通目

六月三日:砂時計のようにどんどん零れ落ちて行く。
じっとしているとだんだん自分がガラスだけのような気がしてくる。
砂は全て零れ落ちてそこらへんに散らばっている。
とりあえず死なないために昼飯を食べる。
寒い。
止まったら終わりの気がして家の仕事を片づけていく。
片端からやっていく。
目標を立てる。
家を出て図書館へ行き小説のための資料を見ることにする。
自転車で行こうと考えていたが鍵を忘れ、歩くことにする。
頼まれたマーガリンを二つ買い、橋を渡り向こう岸へ。
目に付く花々をたどりながら図書館へたどり着く。
「特別整理日のため休館です」
仕方がないので古本屋へ行こうと思う。
途中の中古CD屋でブランキーのCDと「彼氏彼女の事情」のサントラを見つける。だがいつ出費があるかわからないのでなくなくおいてくる。
古本屋で「リンウッド・テラスの心霊フィルム」を買う。
古本屋に長居し過ぎて途中でおかしくなる。
文字の羅列斜めの意味の分からない字のながれ背表紙背表紙背表紙(落ち着け)配列激震なかのマニュアル精神構造(呼吸を忘れるな)宇宙のシュレディンガーの猫は元気か?……
 息を吐き首を振り生きている振りに戻る。
 大丈夫、生きている。
 爪が手のひらに食い込んでいる。
 店主が不振そうに見ていた。
 けれど本を買う時は笑って会計してくれた。
 サンクス。
帰りぎわ黄色くよどんだ夕日。川面に映って黄金に輝く。
キラ、キラ、
自分にも日が射している。
自分も太陽の対象物だとぼんやり思う。
砂時計の砂が落ちきる。
体が重く一歩一歩確かめるような歩きになり右と左の役割を再認識。
腕を振り眉をきつく顰めて何かを引き出そうとするがそれも旨く行かずだらだらとプール帰りの子供のように歩く。
今まで私を日々生かしていたものは何だったか。
昼御飯。
をろくに食べなかったからこんなに無力感に襲われるのか。
正解。
明解。
太陽を見返し腕を振り上げ偽物の気力を絞り家へたどり着く。
歌がない。
音がない。
リズムが消えている。
だから旨く歩けない。
そう思ったが何も何の歌も思い出せないそんな自分が
ただただ
茫漠と─。

(1999)