金子千佳「遅刻者」を読んでいて

この言葉の連なりが私の息を苦しくさせる。
すべて「あなた」と呼びかけるものを、一度真っ黒に塗りつぶしたあとの私は「抽象的な言葉」を禁じた。
そのようなものはお友達同士でやりなさいという嘲笑や、そもそもの「あなた」の位置に空いた多くの空隙が。
考えていることを曖昧なままで話す同好の士など失って久しい私には。
(曖昧なものを信仰している人なら、たくさんいる。そして曖昧なものを型抜きして楽になりたいという欲望に追い回されて疲弊した人たちは深い沈黙を選ぶ。二度と名付けられないように。その人たちはなによりも同じように曖昧なまま存在する誰かを深く憎む)
そういうからくりを一度知ってからは。
私はもう昔のような文を書かない。