「才能のある子のドラマ」アリス・ミラー 引用

P.10
この人たちが相談にきますと、最初の時間から、自分たちの両親、少なくとも両親の一方は大変理解のある人だった、とか、周囲が自分のことを理解してくれないことが、ままありはしたが、それはおそらく自分のせい、つまり、自分が自分を理解してもらえるように、間違いなく表現しきれていなかったからだと思う、などという話を聞かされます。この人たちは、自分の一番最初の記憶の話をする場合にも、かつての自分である当の子どもに対して、まったく何の共感も示しません。これは、この患者さんたちが充分以上に内面観察力をもっており、そして何よりも、かなりたやすく他の人の身になって感じたり考えたりできることから考えて、とても不思議な現象です。──中略──その他に共通して見られるのは、自分自身が子ども時代にたどらされた運命に対する、真の、情動を伴う理解がなく、それにまともに向き合おうとしないこと。──中略──自分自身の真の欲求に関しては何もわかっていないことでした。一番最初に演じられたドラマの内在化はきわめて完璧で、子ども時代はよかったという幻想が破れることなく保持されるほどなのです。

[新版]「才能のある子のドラマ」アリス・ミラー著 山下公子訳 新曜社